不可算名詞

不可算名詞
可算か不可算か

松野町夫(翻訳家)

英語の名詞には、数えられるもの(可算名詞)と数えられないもの(不可算名詞)がある。英米人にとっては、これはあたりまえのことで子供でもわかる。ところが、日本や韓国、中国、タイ、マレーシア、インドネシアなどの言語にはこのような概念はないので、私たちアジア人の多くは、いつまでたっても可算か不可算かを完全にマスターできないでいる。学校で数年間も、英語を勉強してきているというのに。

「子供でもわかる」とはいっても、いくら英米人でも、赤ちゃんや幼児の段階では、可算と不可算を区別することはできない。では、いったい彼らは何歳頃から「数」のカテゴリーを習得するのだろうか?

アメリカでは言語の習得過程の観察・実験・研究が始まっている。池上嘉彦『日本語と日本語論』ちくま学芸文庫の140ページ、「<数>のカテゴリーの習得」を参考にして、私流におおざっぱにまとめると、次のようになる。

アメリカの子供たちの<数>のカテゴリーの習得

2歳頃までは、すべての名詞を不可算として用いる傾向がある。
3歳~4歳は、名詞には可算名詞と不可算名詞とがあることが次第に習得されていく。
5歳~6歳は、可算か不可算かは個々の名詞で決まっているかのような使い方が観察される。
8歳頃から、名詞は文脈によって可算か不可算かが決まるということがようやく理解できるようになる。

なるほど、可算と不可算の概念を完全にマスターするには、ネイティブスピーカーでも8年もかかるのか!しかも、彼らは朝から晩まで四六時中(しろくじちゅう)、それこそ夢の中まで英語漬けにされて生活してきているというのに、それでも8年もかかるものらしい。可算・不可算て、けっこう難しい概念なんだ。これでは私たちがマスターできないのも無理はない。学校で数年間、英語を勉強してきたとはいっても、実際の学習時間を合計してみると、たいていの人の場合1年間にも満たないはず。マスターできないのは、結局、学習時間が圧倒的に不足しているからだとわかる。

可算か不可算かは、アメリカの子供たちは名詞と結びつく数量詞 (many, much, several, a few, few, a little, little, etc.) や冠詞(a, an, 無冠詞) などから区別しているという。つまり、英語の慣用表現を手がかりに、たとえば、many people, a few boys のように "many" や "a few" と結びつくものは可算名詞の複数形、a boy のように a と結びつくものは可算名詞の単数形、much money, a little milk のように "much" や "a little" と結びつくものは不可算名詞というように区別しているらしい。

説明の便宜上、上述の<数>のカテゴリーの習得を3つのレベルにとりあえず分割してみよう。

Level 1: すべての名詞を不可算として用いる
Level 2: 名詞には可算と不可算があり、それぞれ固定している
Level 3: 名詞は文脈により可算か不可算かが決定する

用例:
Level 1: I want milk. I want book. I want toy.
Level 2: I want milk. I want a book. I want toys.
Level 3: Two milks, please. What kind of book do you want?

非英米人の英語では、「レベル1」どまりの表現はすっかりおなじみ。「名詞はすべて不可算」。単純明快。これなら誰でもわかる。言語の基本としてもよいくらい。現に、世界の言語の多くはこれをベースにしている。日本語も、中国語も、韓国語も、タイ語も、マレー語も、名詞に「数の概念」など持ち込んでいない。「数の概念」を除外したからと言って、コミュニケーションに不都合など生じない。もし、コミュニケーション言語として英語を人為的に作るとしたら、「名詞はすべて不可算」をベースに再構築した方がよい。

中学校では、英語の名詞には、数えられるもの(可算名詞)と数えられないもの(不可算名詞)があると教わった。たとえば、可算名詞(countable noun)とは、数えることができる名詞で desk, pen, book などのように、一定の形のあるもの。不可算名詞(uncountable noun)とは、数えることができない名詞でwater, milk, rice, money などのように、決まった形がないもの、というふうに。もちろん、これは民族英語の基本を教えるための第一歩で一種の便法にすぎない。「レベル2」の段階を意識したもので完璧ではないが、とりあえず、これはこれでけっこう役に立つ。

英文法書でも不可算名詞として、以下の単語がしばしばリストアップされる。
advice (忠告), baggage (手荷物), damage (損害), equipment (備品), furniture (家具), information (情報), news (ニュース), scenery (風景), traffic (交通), weather (天気), work (仕事)

確かに、上記の単語は不可算として使用される場合が圧倒的に多い。しかし例外もある。たとえば、equipment (備品) は、おおかたの辞書には不可算名詞 (U) とだけなっているが、英語サイトを検索すると、"equipments" という用例が多いことに驚く。

小学館のランダムハウス英語辞典によると、
equipment
【1】{集合的} 備品, 設備, 用具類; {しばしば equipments} (個々の) 装置, 器具, 器材 {for…}:
laboratory equipment(s) 実験設備
the necessary equipment for an expedition 探検に必要な装備.

若い頃私は、新橋の貿易会社に勤務していた。あるとき、自分で翻訳した英文カタログを持って韓国の提携先のクウォン氏を訪問した。ちなみに、クウォン氏はソウル大卒の日本語も英語も堪能な人だった。

クウォン氏: 松野さん、"Oil- & Gas-field Equipments" (石油・ガス関連備品)は変ですよ。だって、equipment は不可算名詞ですから、"s" をつけることはできませんね。
私: ええ、おっしゃるとおりです。でも、大型の英語辞典には複数形の用例が掲載されていたものですから。
クウォン氏: ほんとですか?じゃあ、ちょっと私の大型辞書で調べてみましょう。えーと、あっ、そうですね、ありました。用例に "U.S. military equipments" というのがありますね。
私: ああ、よかった、掲載されていて。実は私も "s" をつけるのがいやだったのですが、石油とガス、両方の関連設備や備品ですから、よけいつけないわけにはいかないなと考えたのです。
クウォン氏: ああ、そうでしたか。そうでしょうね… それでいいのですよ、きっと。

なんとも頼りない話ではあるが、当時としては、いたしかたのない面もある。洋書は高価で入手困難だったし、参考文献は圧倒的に少なかった。今みたいにインターネットがあるわけでもなかった。「レベル3」の難度は、私たち非英米人にとってはとてつもなく高く、この段階はネイティブスピーカーの専売特許のように感じたものだった。

advice は「アドバイス」の意味では不可算だが、船積み案内(shipping advice)の意味では可算名詞となる。さすがに、baggage, furniture で可算扱いの用例に出会ったことはない(日本や香港など、アジア系店舗のショッピングサイトを除く)。しかし、information は英語では不可算名詞だが、フランス語やドイツ語では可算名詞だときく。ということは、information が equipment のように、informations と "s" をつけて、将来、使用されるようになる可能性はある。実際、"informations" でインターネット検索すると、かなりのヒット数がある。でも、現時点では information は不可算名詞である。

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  • プラダ トート

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